琥珀色の光に溶ける、エメラルドの追憶―。成人式の夜、喧騒を離れた「SAYA」が鏡の中の自分と交わした、少女時代の終わりを告げる儀式。真っ赤な唇が語らない、秘められた「表現者」としての孤独と、美しき覚悟の肖像。

夜の帳が下りた楽屋で、SAYAは一人、鏡に映る自分と対峙していた。 先ほどまでの熱狂が嘘のように静まり返った室内で、彼女の横顔を照らしているのは、柔らかな暖色のスポットライトだけだ。二十歳という境界線を越えた彼女の肌は、光を吸い込み、透き通るような白さを放っている。

彼女はゆっくりと、自分のダークグリーンの瞳を見つめた。 それは、彼女の故郷にある深い森を思わせる色だった。少女の頃、周囲に馴染めず、独りで歌を口ずさんでいた静かな時間。その孤独が今の彼女の表現力の源泉であり、人々が「妖艶」と呼ぶその瞳の輝きは、実は彼女が大切に守ってきた「誰にも踏み込ませない聖域」の現れでもあった。

指先で、丁寧に塗り重ねられた真っ赤なリップをなぞる。 成人した彼女に与えられたこの色は、もはや単なる化粧ではない。それは、大人の社会という戦場へ向かうための鎧であり、自分の意志を貫くという宣戦布告だ。かつては大人たちの言いなりに「可愛いアイドル」を演じていた彼女が、今、自分の意志でこの強い色を選び、纏っている。

ふと、窓の外から遠くの街の灯りが見えた。 「今日から、私は自由で、同時に不自由になるんだ」 新成人としての自覚は、冷たい夜風のように彼女の背筋を通り抜けた。自由とは、自分の足で立つこと。不自由とは、その全ての責任を負うこと。彼女はその重みを、ダークグリーンの瞳の奥に静かに沈めた。

彼女は立ち上がり、銀色の衣装を脱ぎ捨てようとして、一度だけ、その煌びやかな装飾に指を触れた。少女時代の煌めき、ファンの歓声、そしてこれからの不安。それら全てが、今夜、この鏡の前で一つに溶け合っていく。

鬼岩正和(作家、実用書著者、AIアートクリエイター、エッセイスト、そしてパノラマ写真家、WEBシステムエンジニア)

「さようなら、昨日の私」

彼女の唇が、声を出さずにそう動いた。 鏡の中のSAYAは、少しだけ誇らしげに、そして何処か寂しげに微笑み返した。その瞳には、これから始まる長い旅路への期待が、星屑のように微かに灯っている。夜が明ければ、彼女は再び、誰もが羨む圧倒的なオーラを纏った「SAYA」として、光の当たる場所へと戻っていくだろう。

しかし、この静かな部屋で見た彼女の「本当の顔」を知る者は、今、この瞬間を共有した鏡の向こう側の自分だけだった。

バズってる

Posted by さ~ヤン